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眼に関するQ&A

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第1回 「黄斑変性」

眼科Q&Aは、よくご質問をいただくテーマをQ&A形式で専門的な視点からわかりやすく解説し、最先端の情報をお知らせするコーナーです。 第1回は、現在最もホットなテーマで外来でもよくご質問いただく、「黄斑変性」の新しい治療法をクローズアップしました。

Q1日本の視覚障害の原因疾患には、どのようなものがありますか?

①緑内障、②糖尿病網膜症、③網膜色素変性、④黄斑変性[多くが加齢黄斑変性。欧米では成人失明の第一位]、⑤高度近視、とすべて視神経疾患を含む網膜疾患が占めています。これは、日帰り白内障手術のように比較的短時間で治療することができる疾患と異なり、網膜疾患に現在臨床で行える治療は「早期発見」「進行予防と抑制」を目標としており、一度発症すると完全に治癒せしめる治療法がなく、その結果、後遺症として視覚障害が残るからです。
第1位 緑内障
第2位 糖尿病網膜症
第3位 網膜色素変性
第4位 黄斑変性症
第5位 高度近視
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用語解説1網膜とは?

網膜は前から9層の神経網膜と1層の網膜色素上皮からなる厚さ150~300マイクロメートルの組織でその奥にはブルッフ膜と脈絡膜があります。神経網膜のうち一番の奥の視細胞(約1億個ある光受容細胞)で光から変換された電気信号が逆に奥から前へと逆行して伝わるため、黄斑のある中心窩では網膜が薄くなっています(中心窩陥凹)。視細胞の機能と構造の維持には健常な網膜色素上皮が働いています。網膜色素上皮細胞は細胞結合装置により血液網膜関門を形成して脈絡膜血管からの成分が神経網膜へ漏れださないようにブロックしています。
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Q2加齢黄斑変性とはどのような病気ですか?

加齢、遺伝的素因など多因子によって、網膜の中央で「良好な矯正視力を得るために重要な部位(黄斑部、直径2mm程度)で、ドルーゼンと呼ばれる沈着物を発生するなど網膜色素上皮に異常が起こり、その内側にある神経網膜、特に視細胞に障害をきたすのが病態です。 萎縮のみで緩徐に進行する欧米人に多い萎縮型(drytype)と、さらに網膜の後ろの血管層である脈絡膜からの病的な新生血管が発生し、網膜に出血・網膜剥離などの滲出性変化や線維化瘢痕をきたし、急激に視機能が障害される日本人に多い滲出型(wet type)があり、滲出型は放置すると硝子体出血などへと進展し、まったく見えなくなることもあります。

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Q3加齢黄斑変性の症状を教えてください。

症状は気が付かないうちに発症・進行することがあり、歪視症(ゆがみ)、視力障害、かすみ、ものが薄く見える、部分的または中心暗点、光が走るなどの症状が生じ、ほぼ自然治癒がないことから放置すると失明する可能性がある病気です。特に滲出型は急激に視力が低下します。

近年、生活様式の欧米化の進展や人口の高齢化に伴って、加齢黄斑変性の患者さんが急増しており、今後平均寿命はさらに延びることが推測され、大型TV、コンピューター端末やスマートフォンなど眼を酷使する機会が増えていくことから、失明のリスクも増加していくと考えられています。

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Q4加齢黄斑変性にはどのような治療がありますか?

(1) 薬物療法

  1. VEGF阻害薬:現在臨床の場では、世界100か国以上の国々と同様に日本においても、中心窩下脈絡膜新生血管を伴う滲出型加齢黄斑変性に対してVEGF阻害薬による治療が主流になっています。2009年からVEGF阻害薬で治療できるようになったことで、視力の改善が可能となっただけでなく、さらに比較的高い視力の初期加齢黄斑変性に対しても治療が可能になったため、以前に比較して多くの方で視力の良い状態での維持が可能になり、生活の質が向上してきています。海外ではVEGF阻害薬の出現により加齢黄斑変性を原因とする社会的失明者(矯正視力が0.1以下程度の低視力の方)が半減したという国もあります。
  2. その他の薬物療法:末梢循環改善薬や止血剤を内服することがありますが、通常その眼薬理作用は強くありません。

(2) レーザーによる治療

今までの治療法としては、中心窩下脈絡膜新生血管抜去術、光線力学的療法、網膜光凝固術などがありました。自験例をはじめ多くのエビデンスにおいても、加齢黄斑変性への新生血管抜去術は満足できるものではなく、9年前(2004年)から加齢黄斑変性に対する本格的な治療が可能になってきた光線力学的療法によって、ようやく視力の維持しいては一部の方でのみ視力改善効果も望めるようになってきました。網膜光凝固術とベルテポルフィンを用いた光線力学的療法があります。網膜光凝固術は中心窩下にない脈絡膜新生血管には一定の効果がありますが、現在、中心窩下にある脈絡膜新生血管に適応となる場合はほとんどなく、眼科光線力学的療法の適応は治療前の視力が0.1~0.5と狭く術後に大きく視力が下がることもあることから、2種類のVEGF阻害薬に抵抗性で難治加齢黄斑変性の方にのみVEGF阻害薬と併用して行うことがあります。

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用語解説2VEGFとは?

血管内皮増殖因子のことで、病的血管新生や血管透過性亢進、炎症を惹起するタンパク質で、加齢黄斑変性の発症・悪化に強く関わっています。
いくつかのサブタイプがあることが知られています。(例)VEGF-A, VEGF-B


(3) 抗体による治療

眼科疾患治療専用として承認されたVEGF阻害薬には、ルセンティス(ラニビズマブはVEGF-Aに対するヒト化モノクローナル抗体Fab断端)と、アイリーア[2012年末に承認されたアフリベルセプトは、すべてが人のアミノ酸配列で、VEGF-Aのアイソフォームのすべてに結合し、VEGF-B、胎盤成長因子(PIGF)に結合があり、両薬剤ともに視力良好な患者さんを含めてその有効性が示されていますが、長所・短所がありますので、担当医とよくご相談ください。精査後、最初の3カ月は導入療法として毎月投与を行い、その後の維持期では毎月の観察と視力などの検査や眼底写真、網膜断層検査(光干渉断層計)、自発蛍光眼底造影で滲出性変化や病変の活動性が認められるときなどに維持療法が行われています。一方で、導入療法に引き続いて、頻回の治療が必要な方も多くおられます。滲出性変化が続くにつれて視細胞層は変性し細胞数は減少していくため、患者さんにとっても医師にとっても、根気のいる治療となります。

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しかし、臨床の現場では、現在使用できる薬剤では解決できない課題も少なからず存在します。VEGF阻害薬は新生血管の増殖抑制による二次障害の進行抑制が主眼で、網膜色素上皮そのものの加齢萎縮が新生血管発生に関与しているため病態の根治療法ではないこと、薬剤に反応しない方の存在、視細胞下に線維性瘢痕組織が残存した方への有効な治療方法がないことなどです。

用語解説3抗体治療とは?

分子標的療法ともいい、原因の細胞の受容体と標的抗原物質が結合するのを防ぐ抗体を用いる治療法で、加齢黄斑変性の場合、主に血管内皮細胞に発現しているVEGF受容体と標的物質であるVEGFが結合しにくいようにVEGF阻害薬が抗体として作用することで、VEGFが惹起する病的血管新生を一定期間抑制します。

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Q5加齢黄斑変性に関する最先端の研究や治療法について教えて下さい。

最近、人工多能性幹細胞(iPS細胞)の利用による再生医療や、人工網膜(次号以降)の実現に対する期待が高まってきています。網膜は脳と同じく中枢神経ですが、これまので治療方法にない適応の変化と効果が期待されています。皮膚採取⇒iPS作製⇒分化誘導⇒iPS-網膜色素上皮細胞のシート化⇒網膜硝子体手術で新生血管膜を抜去し欠損した老化網膜色素上皮細胞の部分にiPS-網膜色素上皮細胞シートを網膜下移植で置換するという治療です。

用語解説4iPS細胞とは?

iPS細胞は、既に分化した細胞から人工的に作られた幹細胞です。あらゆる種類の細胞に分化できる能力(多能性)を持っているため、網膜の細胞にも分化することが可能です。

※ その他の注意事項

萎縮型加齢黄斑変性に関しては、VEGF阻害薬で治療が可能でないので、定期検査とともに、予防という観点を持つことも大切です。ルテインなどの黄斑色素は黄斑部を有害ない青色光から保護する役割があります。これらの黄斑色素が加齢黄斑変性の発症と関連があるとの報告もあり、臨床的にもルテインの摂取により黄斑色素が増加する報告がありルテイン配合のサプリメントによる発症、進行予防効果が期待されます。疾患の治療だけでなく、禁煙や食生活でリスクを軽減できるため日常生活の見直しも必要です。また白内障手術時に眼内レンズの種類も考慮する必要があります。

このような未だ多くの課題をもっている加齢黄斑変性の治療を進めるに当たり、基礎的臨床的なエビデンス蓄積によって加齢黄斑変性の診断・治療の質が向上することで、多くの加齢黄斑変性患者さんが、生きている限り、よりよい視力を保ち、生活の質向上に繋がれば幸いと思っています。

コラム「多様な治療法の可能性」

今回は加齢黄斑変性の新しい治療法に関してお話ししましたが、ここにもたくさんの種類の治療法が登場してきました。
治療には、大きく分けて薬物療法を中心とする内科的治療と手術やレーザー等による外科的治療があります。これらの治療法は、単独で用いられる場合もありますが、病気の進行度や患者さんの年齢、その他の合併症の有無などによって、様々な組み合わせによる最適化治療が試みられています。したがって、良く医師の説明を聞き、相談した上で治療法を選択して行くことが、より重要となってきています。新薬の開発はこれからも加速化して行くことでしょう。
最近注目されているのが、「分子標的創薬」です。これは、病気の原因に関与している分子が同定された場合、その分子を標的として薬を開発する戦略のことをいいます。分子が同定されるのみならず、その分子構造も解明されると、コンピューターを用いて薬をスクリーニングしたり、薬の構造最適化をしたりすることも可能となってきています。皆さんもうお気づきだと思いますが、今回登場してきた標的分子は、VGEFですね。VEGFは、加齢黄斑変性の病態に関与していることが明らかにされたので、VEGFを標的とした低分子化合物(いわゆる薬物)や抗体が開発されてきたのですね。今後は、VEGFのみならず、それに関連する分子を新たな標的として、薬の開発が進んでいくものと思われます。
一方で、病的になった細胞や組織そのものを入れ替えてしまおうというのが、再生医療です。その最先端として注目されているのが、京都大学の山中教授によって開発されたiPS細胞ですね。この発見によって昨年、山中教授にノーベル賞が授与されたことは、皆さんも良くご存知のことと思います。そして、つい最近「加齢黄斑症」が日本で初めて、iPS細胞を用いた臨床研究の対象として、国の承認を得ることができました。一日も早く、その安全性と治療効果が確証されることを願ってやみません。
再生医療に関しては、また次回詳しく解説して行きたいと思います。